全世界のスポーツ選手の宝物
さて、今回のお題は“大谷翔平”選手です。大リーグの悪しき風習を変えようとしているのかと思うような、衝撃的な出来事。事件は6月19日に起こりました。ユーチューブを見ることができる方は、『大谷翔平、デッドボール』で検索すると、一連の動画が出てきますから見てみてください。
ドジャースにとって、ダルビッシュ投手が所属するパドレスは宿敵。この日のパドレス戦で9回表に、ドジャースのピッチャーが相手の主力打者の手首にデッドボールを当ててしまいました。両軍入り乱れて、監督同士はつばは飛び合うほどの言い争い。結果として、審判から『警告試合』が宣告され、両監督は退場になりました。その裏のバッターボックスに立った大谷選手。おそらく“自分も狙われるかもしれない”と思っていたでしょうが、パドレスの守護神であるスアレス投手が投げた161㎞の剛速球が右脇(厳密には右広背筋)を直撃しました。唸り声をあげて、痛みをこらえた大谷選手。一塁へ向かいながら、味方のベンチに向かって2度も『飛び出してくるな!』と合図を送ったのです。そこからが、彼のすごいところ。デッドボールを当てられた部分はとても痛いであろうに、わざと気にする素振りを見せず。ピッチャーが危険球で退場となり、交代になっている間に、何と大谷選手は後ろに両手を回して“私は丸腰です。何もしません。”とばかりに相手ベンチに向かい、仲のいい選手と談笑をしに行ったのです。「もうデッドボールは無しだよ。」と大谷選手。サイン入りバットを大谷選手にお願いした選手には、「バットは無し。プラスチックバットならいいよ。」と彼はジョークで返したのです。
舞台裏では、もっとすごいことが起きていました。一連の騒動を激怒しながら見ていたパドレスのダルビッシュ有選手。退場になったスアレス投手を捕まえて、「俺たちは、あのマウンドに“野球の誇り”を持って立っている。翔平にぶつけるということは、野球そのものに泥を塗ることだぞ!」と怒りをかみ殺して諭したのです。試合後の記者団に囲まれたスアレス投手のコメント。「ダルビッシュに言われたことは、一生忘れません。」ダルビッシュは、ベンチでも声を荒げました。「翔平は“野球の象徴”なんだよ。あの死球を見て何も感じないようなら、俺たちはこのスポーツに携わる資格がないと思う。」
後日談がまたすごかった!ダルビッシュが、LINEを通じて大谷とスアレスの仲を取り持ったのです。ダルビッシュの携帯には、大谷がスアレスに宛てたメッセージがありました。「気にするな。なんで君があれをやらなきゃいけなかったのか、俺にはわかっている。だから落ち込むな。野球をやろうぜ!」スアレス投手は、何度も読み返しながら、涙を流していたそうです。そしてこの大事件から、1か月後に開催されたMLBオールスター試合前の練習で、スアレスを見つけた大谷選手。冗談で治った右脇をさすりながら、スアレスに握手、そしてハグ。試合後に、涙で体を震わせながら語ったスアレス投手のコメントです。「私が本当に申し訳ないと謝ったら、翔平はこう言ったんです。ロベルト(スアレス選手の名前)、大丈夫だよ。あれのおかげで今日こうして友達になれたんだから、僕にとってはむしろラッキーだったかも。ロベルト、君は素晴らしい投手だ。あの速球は本当にすごかった。ただ、次は僕の体じゃなくてキャッチャーミットに投げてね!」
大谷翔平選手が、全世界のスポーツ選手の宝物になった瞬間でした。