藤沢医院

藤沢医院通信blog

私の心と体を支える“外科医”

 今回はスポーツではなく、私の心と体を支えている“外科医”について書きたいと思います。

藤沢医院に戻ってくるまでの22年間、私は大学病院の外科医局で働いていました。手術は成功してこそ評価されるわけですが、外科医は生きた人様の体にメスを入れることが許される唯一の職業です。朝から夜中まで働いて、昼は医局の机でサンドイッチかおにぎりを左手に持って、右手はボールペンで書きものなーんてことが日常茶飯事でした。日曜日だって、手術をした患者さんのことが気になります。家族サービスは置いておいて、まずは病院に患者さんを診に行くのが、当たり前の生活でした。

 皆さんは、手術をする外科医は器用な人がなるものだと思っていませんか?当然、手が器用で手術が上手な先生はたくさんいます。でも、不器用でも手術が完璧な先生もたくさんいるのです。私は、むしろ不器用な先生が多くの修練を積んで、名医として患者さんが訪れる

姿を目の前で見てきました。不器用な方が、一生懸命患者さんを治そうと努力するのです。

手術台の上の患者さんに、できうる限り全力で、細心の注意を払いながら手術を全うする姿こそ、外科医に求められるものだと思います。私は非常に不器用な外科医でしたが、39歳を過ぎてから恩師の熱血指導を受けて、一人前の外科医に育ててもらいました。外科医として手術に明け暮れるには、非常に年を取っておりましたが、25歳のときに「この先生みたいになりたい。この先生についていきたい。」と心に決めた恩師の指導です。最終的に行き着いた結論は、“目の前の手術を愚直に全うする”だったのです。

 実はこの記事を書いているときに、たまたまNHKの“プロフェッショナル 仕事の流儀”で北海道の脳神経外科医である谷川緑野先生の放送が流れており、その手術に見入ってしまいました。全国各地から地元で手術を断られた脳動脈瘤の患者さんたちが、先生の元を訪ねていました。今は手術の映像も、とても鮮明にテレビ画面で見られるようになったものです。谷川先生は、シャープペンの芯ほどの太さの血管も傷つけることなく手術を全うされており、その先生の元にはやはり多くの若手外科医が集結してくるのです。谷川先生のお言葉で最も印象的だったのは、「不器用でも手術はできる。その手術に自分ができることを冷静にやり遂げることが大事。」という内容でした。この文面を書いている私にとっては、まさにリアルタイムで“目からうろこ”の言葉でした。谷川先生の専門分野である脳神経外科の手術は、1mmでも切るところがズレれば大変な後遺症を残す可能性がある、恐ろしいほどに正確性が要求される分野です。恐怖で手が震えることが許されないのです。いかに平常心を保ち、冷静沈着に手術を全うするか、これの繰り返しなのです。

 現在の私は、切り傷を縫合する、化膿したしこりを切開するくらいの外科処置しかしなくなりましたが、町内の外科医は私一人であり、今でも外科医であることに誇りを持って治療にあたっています。私の父も外科医であり、息子も外科医としてその入り口に立ちました。

息子の時代は、腹腔鏡やロボットを駆使した手術に移り変わってきていますが、“目の前の患者さんにできうる全てのことを冷静かつ沈着に全うする”という点は、未来永劫変わることがないのです。

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