“細菌”と“ウイルス”の違い
今回は“細菌”と“ウイルス”の違いについて書いてみたいと思います。
患者さんから時々「風邪をひいたから抗生剤をください。」と言われます。ひと昔前は、これが当たり前のお願いでした。なぜなら私の父の時代は、風邪薬と抗生物質はセットで出すのが普通?だったからです。しかし、今は違います。風邪の原因はウイルスであり、これを退治するのは私たちの体であり免疫力なのです。一部に抗生物質を処方することがありますが、これはウイルスと細菌の混合感染を疑ったときです。
皆さんが知っての通り、細菌とウイルスはどちらも非常に小さく、眼で見ることはできません。細菌は一つの細胞をもつ微生物で、自ら増える力を持っています。大きさは、だいたい1000分の1mmくらいで光学顕微鏡で見ることができます。対してウイルスは、蛋白質でできた殻と内部に遺伝子(DNA、RNA)を持つだけの単純な構造の微生物です。大きさは、細菌のさらに1/1000くらい小さく、ウイルスを見るためには電子顕微鏡が必要です。
細菌は糖分などの栄養と水があり、適切な環境であれば自らで増殖できます。しかし、ウイルスは栄養と水があったとしても、単独では生きていけません。ウイルスは自分自身で増殖する力がなく、生きた細胞の中でしか増殖できませんから、他の生物を宿主にして増殖します。またウイルスで感染された細胞は、ウイルスが増殖して多量のウイルスが細胞の外に出てくると死んでしまいます。そして、増殖したウイルスがまた他の細胞に入り込んで増殖を続けます。そのため、宿主の細胞が次々に死んでゆくことで、生物は耐えきれずに死に至るわけです。すなわちウイルスにとっては、他の生物へ感染し続けることだけが生き残るための最低条件なのです。
それでは治療法ですが、細菌には一般的に抗生物質が有効です。但し特殊な病気を除いてむやみに長期間服用したり、自分勝手で適当な服用(例えば処方された日数を服用せず、自分でため込んで勝手に服用する)を繰り返していると、抗生物質が効かない耐性菌が出現することがあるので注意が必要です。また、処方する医師も感染が起きている場所(肺や腸などの臓器)を特定して抗生物質を決めないと、耐性菌を増やす原因をつくりますから責任重大です。
先ほども書いた通り、ウイルスには抗生物質は効きません。但し、インフルエンザウイルスなど一部に有効な抗ウイルス剤(ウイルスの増殖を抑える薬)があります。またワクチンは、無毒化したウイルスを体内に入れて免疫力を高め、実際に感染したときに急激にウイルスが増殖することを抑えます。今、世界はコロナウイルスに有効な薬を見つけ、ワクチンをつくり出すことに懸命な努力を続けています。一般に感染症に対する基本的予防策は、まず清潔を保つことのほか、免疫力を低下させないことが大切です。そのためには栄養バランスの良い食事、基礎体力をつけること、規則正しい生活を過ごすことが基本です。