10年ぶりの恩師との再会
8月の半ばに、4連休のお盆休みをいただきました。外科医の私にとって、4連休は大きな決断です。なぜならば、怪我や化膿した傷の消毒処置で通院している患者さんが必ずいるからです。私の父が日曜日に患者さんを呼んで消毒していたように、私も休みの日に患者さんを呼んで消毒することはよくあります。東京で外科医をしていたときに、手術をした担当患者さんの傷を日曜日に診に行く、これは私が20年以上続けてきた日課でした。自分で切ったり縫ったりしたら、それは責任が重たくなるものです。
本題ですが、東京の自宅に帰った私には、1つどうしてもやりたいことがありました。
10年間お会いすることができていない恩師の児島先生に、どうしても会いたかったのです。昨年病院長を退任された先生は、今も順天堂練馬病院で週1回外来を継続しておられます。さて、去年のある日、後輩から突然電話がかかってきました。「児島先生が退任されるので、20人以上のビデオメッセージの最後に、藤澤先生のメッセージを流したい。」とのこと。断る理由があるはずもなく、携帯に向かってビデオ録画を撮り続けること、何と40回。自分の“話下手”を改めて自覚しました。そして思ったことは、『ユーチューバーってすごいな!』。私が教わったゴルフユーチューバーの“てらゆー君”は、ゴルフを教えるのも上手だけど、話も上手い!
児島先生は、退任パーティーの翌日に私にメールをくれました。『ビデオメッセージの最後に藤澤が登場したとき、会場が一番盛り上がったぞ!』必死でしゃべった、たった60秒のメッセージでした。
面会の当日。いざ病院へ入ると、受付のお姉さんから『関係者でない方は、ここから先へは入れません。』確かに私は部外者でした(涙)。同級生でラグビー部のキャプテンだった須郷君(外科の教授)を見つけて、何とか中に入れてもらいました。現病院長の浦尾先生(ラグビー部の先輩かつ小児外科の教授)は夏季休暇で不在、1学年下でラグビー部後輩の杉田君(副院長かつ救急の教授)が新病棟を案内してくれました。児島先生にお会いする前にどうしても会いたかった看護部の師長さん面々。看護部で沢山の女性(師長)に囲まれて、『10年ぶりに先生の声を聞いて、癒されたーー』なんて言われて、とても気分をよくしてしまいました。でも、夜中の緊急手術や2009年にはやった“新型インフルエンザ”、そして病院が大きく揺れた東北大震災のときに、ともに闘った過去を共有しているからこそです。
最後に、10年ぶりに児島先生との再会。恩師は少しお痩せになられて、私より大きかった背丈も縮んだ印象。私にとって、男性で“この人のためなら何でもできる!”と思えた唯一無二の存在。絶対に失敗が許されない手術で、3回も私を助けてくれた方です。私が皆様に提供する医療の実践は、児島先生から全て教わったと言っても過言ではありません。師はメスを置いた後も、内科の外来を行うために内科書を読んで勉強したとのこと。70歳を前になかなかできることではありません。今なお研鑽を積み、私が決して追いつくことのできない背中です。かつて22年間恋焦がれた背中ですが、児島先生から最初にかけられた言葉が、『僕のいる場所までは引き上げてあげるから、一緒に働こう!』でした。私にとって追いつけない、敵わないからこそ、大好きなんです。