人工多能性幹細胞(iPS細胞)
今回は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)について書きたいと思います。多能性幹細胞とは、ほぼ無限に増殖する力と、あらゆる細胞に分化する力を併せ持つ細胞のことです。2006年に、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授は、人工的にこの細胞が作成できることを証明しました。
多くの病気の原因は、“細胞が正常に機能しなくなる”ことから起きます。例えば身近な病気で説明すると、『糖尿病』は血糖値を下げる“インスリン”を分泌する細胞の機能が低下するから発症しますし、『心不全』は心臓を動かす細胞の機能が低下するから発症します。
『幹細胞』とは、その名の通り、“幹”となるおおもとの細胞のこと。この細胞を人工的に、筋肉にしたり、神経にしたり、血管、肝臓、腎臓などなど・・・。つまり、簡単に言うと、再生医療は病気の原因になっている部位の細胞をたくさん作り出して修復し、機能を回復しようという画期的な治療です。
具体的な例が、一番わかりやすいと思います。先ほど述べました『糖尿病』ですが、この病気は膵臓にあるインスリンを分泌する細胞が機能低下を起こして発症します。現在、この細胞を作成するために、多くの研究者が知恵を出し合って頑張っています。
次に『心不全』です。この病気は、まさしく心臓の機能が衰えること。お母さんのお腹の中にいるときから、この世にさようならを言うまでずっとその人を支える一番大事な臓器です。皆さんはニュースで見たことがありますか?2007年に、大阪大学で心臓外科の澤芳樹教授が、“拡張型心筋症”という心不全に至る病気の患者さんに、その方から作成した“心筋シート”を心臓に万遍なく張り付けたところ、心臓の機能が回復して退院できたのです。
眼の表面にある角膜はどうでしょう?角膜の細胞が壊れると、視界が濁って見えなくなってしまいます。こちらも、2022年に初めてiPS細胞から作られた角膜上皮の移植手術が4人の患者さんに行われ、全て成功しています。眼の奥の“網膜”も、今必死になって再生の研究が進行中です。
皆さん、脊髄損傷は聞いたことがありますよね。交通事故や転落により、背骨の中を走っている一番太い神経が切れて、そこから下が麻痺してしまう恐ろしい外傷です。私にとって忘れられないのは、2009年に大好きなプロレスラーの三沢光晴選手に起きた事故です。試合中にバックドロップを危険な角度でくらって首が折れ曲がった三沢選手は、レフェリー『試合を止めるか?』、三沢『止めろ・・・』という言葉を最後に天国で旅立ちました。首の高さで脊髄が断裂したため、呼吸が出来なくなってしまったのです。リング上で何人ものレスラーに囲まれて心臓マッサージを受けましたが、搬送先の広島大学病院でその日のうちに死亡が確認されました。46歳の若さでした(涙)。この痛ましい事故から12年後の2021年には、慶応大学で脊髄の怪我から間もない4人の患者さんに再生した細胞を移植し、2人の患者さんに機能回復が認められました。
iPS細胞を用いた再生医療に関して、厚生労働省の専門部会は2月19日に『重症心不全』と『パーキンソン病』の2つの病気に対して、条件付きで細胞の製造を承認しました。3月上旬には正式に承認され、世界で初めて実用化される見通しです。