ミスタープロ野球
“ミスタープロ野球”こと長嶋茂雄さんが永眠されました。
私が大の巨人ファンであることを皆さんご存知かと思いますが、実は長嶋さんの現役時代は、中日との最終戦である引退試合しか見たことがありません。そう、『我が巨人軍は永久に不滅です。』の名言が発せられた日です。私が大好きなプロ野球選手は王貞治さんと松井秀喜さんであり、これも過去にこの通信で書かせていただきました。
長嶋茂雄さんと王貞治さんは、日本野球界を象徴する二人の偉大な存在ですが、そのプレースタイルはまるで陰と陽のように対照的でした。長嶋さんが野球を「動」で描いたのに対し、王さんは「静」の美学を追求しました。長嶋さんのプレースタイルは、その華麗なスイングや全力疾走といった、観る者を引きつけるダイナミックな動きそのもの。まるでその場を支配するかのようなエネルギーは、彼自身のキャラクターとも見事に融合していました。一方、王さんはその正確無比なバッティングフォームと、穏やかで集中力のある態度で知られています。王さんの一本足打法は「静」の象徴とも言えるものであり、彼が放つホームランは、技術と精神力を極限まで磨き上げた賜物です。王さんがバットを持って1本足で立った時に、小学生がぶら下がってもピクリとも動かなかったのは、有名な話です。ある年の優勝旅行先のハワイでの出来事。マリンスポーツとゴルフを楽しむ長嶋さん、ホテルの部屋で何百通もの年賀状を一生懸命手書きする王さん、とても対照的ですね。
長嶋さんの告別式で、喪主である次女の三奈さんが、「父が世界で一番好きなのは、松井秀喜さん。海で私と松井さんが同時に溺れたら、父は真っ先に松井さんを助けるんじゃないかと思うくらい。」と話していたのは、とても印象的でした。松井さんは巨人に入団する前は大の阪神タイガースファン、その中でも“ミスタータイガース”と言われた掛布雅之選手が大のお気に入りでした。4球団競合の中、最後に残りくじで松井さんを引き当てた長嶋監督、それから松井さんの野球人生は大きく変化していきました。長嶋監督と松井さんの有名な逸話である“素振り”が始まったのです。東京ドームでは試合前の監督室、遠征先では宿泊先で長嶋さんの部屋、毎日真剣に100~200回は振ったそうです。長嶋監督が一番大事にしていたのは、松井さんのバットが空気を切り裂く“音”です。いい音が聞こえると、『そうだ!!』と監督の声。松井さんが巨人の4番を背負っても素振りは続き、アメリカのヤンキースに入団する前まで続きました。しかし、ヤンキース入団後数か月で松井さんの調子が悪いと見るや、長嶋さんはアメリカまでひとっ飛び。マンハッタンの高級ホテルまで呼び出して、ホテルの部屋で素振り開始。まさに、師弟関係の典型ですね。心の広い長嶋さんは、解説者時代に千葉県の同郷出身で、応援していた掛布さんの自宅まで電話を入れました。絶不調で結果が残せない状態の掛布さん。電話の向こうで、長嶋さんは『掛布君、バットを振ってみろ!』。当然携帯電話のない時代です。受話器を置いて、掛布さんがバットを振り始めると、『そうだ!掛布君!今のスイングだ!!』。長嶋さんは頭で素振りを想像しながら、その音を聞き分けていたのです。
最近ゴルフの練習をさぼっている私。
『そうだ、素振りだ!練習場に行かなくても、いくらでも上手くなれるじゃないか!ありがとう、長嶋さん!!!』